米国食品医薬品局(FDA)の医薬品評価研究センター(CDER)は毎年、前年に承認した新薬の概要を公開している。センター長の Patrizia Cavazzoni 氏によれば、13回目のレポートとなる『New Drug Therapy Approvals 2023』は「患者・消費者に安全で有効な薬を提供する上でCDERが果たした役割を明確に示す」ものだという。このレポートを中心に、2023年に承認された新薬の傾向、❷承認プロセスで利用された特別措置、❸希少疾患への取り組み、❹注目の新薬、❺日本勢の動向などを紹介する。

 

■65%が1つ以上の特別措置を利用


 まずは全体の傾向を見てみよう。


【広範にわたる画期的な新薬の承認】23年に承認された新薬(新有効成分含有医薬品、NMEs)は55品目。37品目と低調だった22年の1.5倍に迫った。

 疾患領域としては、がん(Oncology)が最多の13(23.6%)、次いで神経(Neurology)が9(16.4%)、血液と感染症が各5(各9.1%)、皮膚・消化器・遺伝性希少疾患・内分泌代謝・眼が各3(各5.5%)、腎・精神が各2(各3.6%)、その他4だった〈図・上左〉


【特別措置の積極的な活用】FDAは有効性と安全性を確保しつつ新薬の承認を速やかに進めるために薬事上の特別措置を複数講じている〈図・上右、表〉広報では国民向けに、「全ての病気が同じインパクトを持っているとは限らない」「治療方法がない致命的な疾患では(リスクとベネフィットの兼ね合いで)重い副作用が許容され得る場合もある」「希少疾患では大規模な臨床試験を行えない」「重篤な疾患で既存の治療がある場合は、より良い治療や副作用の少ない治療を期待する」と制度の趣旨を説明。さらに、Fast Track designation、Breakthrough Therapy designation、Regenerative Medicine Advanced Therapy designation(RMAT)の3つの措置を「医薬品開発を支援するもの」、Priority Review designationを「FDA審査のタイムラインに関わるもの」と整理している。また、Accelerated Approvalは「通常の薬事承認とは異なる唯一のルート」だが「FDAの安全性・有効性基準には合致」しており「特に、病気の経過が長く有効性の見極めに時間がかかる疾患の評価する上で有用」としている。23年は36品目(65.5%)が1つ以上の特別措置を受けていた。


【全体の患者数は少なくない希少疾患】Rare disease(希少疾患)とは、米国で患者数20万人未満の疾患を指す。薬事上は、Orphan Drug designationによって各種優遇や相談等の支援が受けられるが、承認審査は他の医薬品と区別なく行われる。疾患ごとの患者数が少ないとはいえ7,000~10,000種類あり、米国内には2,500~3,000万人の希少疾患患者がいると推定される。承認された新薬におけるオーファン指定の割合は過去10年4割~5割超で推移しており、23年は28品目(51.0%)だった。FDAは22年5月にAccelerating Rare Disease Cures(ARC)Programを立ち上げており、今後さらに積極的な取り組みを行うことが予想される。


【迅速な承認】23年承認の55品目中、米国の承認が世界初となったものが31品目(56.4%)1回目の審査サイクルで承認したものが46品目(83.6%)だった。





First-in-classもオーファン優勢


【First-in-classが新薬の3割超え】First-in-class の新薬は20品目(36.4%)に上った〈表〉。内訳を見ると、もとより治療法が限られるオーファン指定の薬剤が20品目中13品目(65.0%)を占めた。このうち、トフェルセン(米国での製品名QUALSODY、Biogen、アンチセンス核酸:ASO)とネドシラン(RIVFLOZA、siRNA)が核酸医薬品。First-in-class以外でも、エプロンテルセン(WAINUA、Ionis/AstraZeneca)がASO、アバシンカプタド ペゴル(後述)がアプタマーだった。


 また、がん領域ではFirst-in-classの❶タルケタマブ(TALVEY、Janssen)以外にも、❷エルラナタマブ(ELREXFIO、Pfizer)、❸グロフィタマブ(COLUMVI、Genentech)、❹エプコリタマブ(Genmab/AbbVie)が二重特異性抗体(T細胞エンゲージャー)で、いずれも優先審査と迅速承認が行われた。適応症は、オーファン指定の❶❷が多発性骨髄腫、非オーファンの❸❹はB細胞リンパ腫だった。


※各薬剤の詳細情報はFDAの新薬承認のページからのリンクで参照できる。






日本企業関連の承認6品目


 日本の製薬企業関連では、オーファン以外で4品目、オーファン1品目が承認された〈図〉。rADAMTS13はこれらとは別に、生物薬品評価研究センター(CBER)が同年に承認した生物学的製剤である。※記載は【一般名/米国での製品名、企業】本体、剤形→米国における適応症、その他の特徴の順。


【レカネマブ/LEQEMBI、エーザイ/Biogen】βアミロイドの可溶性および不溶性凝集体に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体、注射剤→アルツハイマー病(AD)。軽度認知障害(MCI)、軽度(早期)ADの患者で開始。2023年1月にFDAの迅速承認、7月にフル承認を取得。


【アバシンカプタド ペゴル/IZERVAY、Iveric/アステラス】免疫反応に重要な役割を果たす補体を標的とする補体因子C5阻害剤(RNAアプタマー:蛋白質等の標的分子に対して抗体のような高い親和性と特異性を有するRNA分子、核酸医薬品)、硝子体内注射液→地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性。


【フルキンチニブ/FRUZAQLA、武田】VEGF1/2/3キナーゼ阻害薬、カプセル→フルオロピリミジン・オキサリプラチン・イリノテカンを含む化学療法、抗VEGF療法、抗EGFR療法の治療歴を有する転移性大腸がん(mCRC)。予後不良で治療の選択肢が限られるmCRCに対する分子標的薬。


【フェゾリネタント/VEOZAH、アステラス】FDAとして初めて承認したニューロキニン3受容体拮抗薬、錠剤→閉経に伴う中等度から重度の血管運動症状(VHS=ホットフラッシュ)。閉経前はエストロゲンとニューロキニンB(NKB)がバランスをとり体温調整中枢を制御しているが、閉経によるエストロゲン減少によってバランスが崩れVMSが生じる。同剤はDNBをブロックして脳の体温調整中枢のニューロン活動を緩和する非ホルモン療法で、VHSの頻度と重症度を軽減する。


【キザルチニブ/VANFLYTA、第一三共】FMS様チロシンキナーゼ(FLT3)阻害薬、錠剤→FLT3-ITD変異を有する急性骨髄性白血病(AML)。AML新規診断患者の最大37%がFLT3変異を有し、うち約80%にFLT3-ITD変異が認められ、変異のない患者と比べ再発率が高く、生存期間が短いとされる。

【rADAMTS13/ADZYNMA、武田】遺伝子組換えヒトADAMTS13、注射用凍結乾燥粉末→先天性血栓性血小板減少性紫斑症(cTTP)の成人および小児患者の予防的およびオンデマ

ンド酵素補充療法。cTTPは、ADAMTS13 〔Von Willebrand(血液凝固)因子切断酵素〕の欠乏によって生じる超希少(100万人当たり2~6症例)かつ慢性の血液凝固障害で、急性症状、慢性症状、TTP症状(血小板減少症、微小血管症性溶血性貧血、頭痛、腹痛などを含む)を呈する。未治療で経過すると急性TTP事象の死亡率は90%超。


 この他、2024年注目の薬としてNature Reviews Drug Discoveryは、アステラスのゾルベツキシマブ(抗Claudin 18.2モノクローナル抗体、Claudin 18.2 陽性、HER2 陰性の切除不能な局所進行性または転移性胃腺がん、および食道胃接合部腺がんの治療薬)を挙げている。


 


 2024年2月22日現在の情報に基づき作成

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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。